物理学教室における研究

物理学の研究対象は、ミクロな世界からはるか広大な宇宙空間まで無限に広がっており、また、常にその対象を拡大し続けています。物理学教室においても、物理学のさまざまな研究が行われています。その研究は、次の4つに大きく分けることができます。
・宇宙の研究
・素粒子の研究
・物質の研究
・生物の研究

ただし、この分け方は便宜的なもので、実際にはこのようなグループ分けとは関係なく協力、議論は行われています。

宇宙の研究

私たちを取り巻くこの宇宙がどのように始まり、どのような進化を遂げて今日に至ったのか。また、その姿はどのようなものなのか。星空を見上げるとき、多くの人の胸にこのような疑問がわき上がるでしょう。物理学教室では、このような問いにこたえるための実験・理論研究が展開されています。
宇宙の研究には観測手段の開発がたいへん重要です。現在の主要な観測手段は光(電磁波)です。宇宙の彼方からやってくる光をとらえることによって宇宙の歴史を理解し、はるか彼方でのできごとを解明します。同じ光(電磁波)であっても、異なる波長の光を観測することで、宇宙は異なった顔をみせてくれます。物理学教室では、異なった波長の光を観測手段とする研究グループ(電波観測、赤外線観測、近赤外線-可視光観測、X線観測)がお互いに協力し合って研究を進めています。
我が国の宇宙物理研究のリーダーの1人であった故早川幸男教授に率いられ発展した物理学教室の宇宙研究は今日も世界の研究をリードしています。

素粒子の研究

物質は分子や原子からなります。原子は陽子や中性子と電子からなりたちます。陽子や中性子はさらにクォークからなりたちます。では、クォークは何からなりたつのでしょうか。このように物質の構成要素の基本をしらべ、それらが従う物理法則を明らかにする研究が素粒子の研究です。これらの実験には大きなエネルギーを生み出す加速器が必要になることが多いので高エネルギー物理学とも呼ばれます。
物理学教室には、タウニュートリノとよばれる素粒子の直接観測実験、われわれの世界=物質世界と反物質世界の非対称性(CP対称性の破れ)に迫る実験などで主導的な役割を果たしている実験研究グループがあります。また、理論グループは、クォークモデルのさきがけとなった坂田モデルにはじまり、ニュートリノ振動の予言など輝かしい伝統を誇っています。特に、CP対称性の破れや複合模型に関する研究は、名古屋大学の貢献をぬきには語れません。
よりミクロの世界へ、より高いエネルギーの世界へ、想像力の翼をひろげて前進を続けています。

物質の研究

われわれの身のまわりにはさまざまな物質があります。あるものは電気をよく通し、あるものは電気を通しません。磁石にくっつく物質もあれば、低温で電気抵抗がゼロになる超伝導状態になってしまう物質もあります。どの物質も同じような構成要素(分子・原子)からできているのに、このような多様で豊かな世界が現れるのはどうしてでしょうか。そこにはどのような基本法則がかくされているのでしょうか。多様性の背後にはより簡単で統一的な概念があるのでしょうか。このようなことを追究する物理学の分野は物性物理学とよばれます。
名古屋大学の物理学教室は物性物理学の中でも超伝導研究、極低温物理研究に長い歴史を持っています。超伝導の基本を解明した理論のさきがけは名古屋大学で得られました。現在も超伝導に代表される多様な物質の世界の謎に実験・理論の両面から挑戦しています。必ずしも応用の対象としてだけではない、基礎科学の対象としての物質の研究が展開されています。

生物の研究

私たちは、物理学の力を信じています。物理学の方法を用いれば、多くのことがらをより深く理解することができると信じています。とすれば、物理学を用いて、「生命とは何か」という問いにこたえたいと思うのは当然でしょう。生物も構成要素としては、やはり分子・原子です。ある特定の分子・原子の集合が「生命機能」を持つ、そのメカニズムは何なのでしょうか。私たちは、きっと物理学によってそのこたえを見出すことができると考えています。それが生物物理学の究極の目標です。ひょっとすると今の物理学の枠組みの中だけでは説明はできないかもしれません。もう一段広い枠組みが必要かもしれません。そんなわくわくする気持ちを持ちながら、生命と向き合って研究を続けています。
名古屋大学の物理学教室はいち早く生物物理学の重要性に気がつき、生物物理学の研究グループを擁し、我が国の生物物理学を引っ張ってきました。生命科学の重要性が認識される中、今後ますます生命科学における物理学の考え方、方法は重要になることでしょう。


このように物理学教室の研究は、幅広い分野に及んでいます。一見すると、これだけの分野にわたる研究グループが1つのまとまりをつくることが不自然であるようにさえ思われるかもしれません。しかし、多様な研究対象に迫る考え方、方法の背後には共通した考え方―物理学の考え方―があるのです。
この「物理学の考え方」は決してもうすっかり完成してしまったものではありません。新しい研究対象に向かうとき、全く新しい考え方が必要になるかもしれません。それこそが本当の飛躍のときであり、だからこそ若い人が挑戦する価値があるのです。

紹介パンフレット「物理学教室における研究」 理学部紹介映像 研究室一覧


本学出身の小林誠・益川敏英両博士が2008年ノーベル物理学賞、本学理学部元助教授の下村脩博士が2008年ノーベル化学賞を受賞されました。

[理 philosophia No. 15]